大判例

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福岡地方裁判所 昭和42年(ワ)881号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔編注〕 最判四三年三月一五日(民集二二・三・五八七、本誌二一八号一二五頁)参照

〔判決理由〕示談の成立について

原告政一郎が被告下川から金三五、〇〇〇円を受け取つたことは当事者間に争いがない。<証拠>を綜合すると昭和四一年一二月二〇日原告政一郎が被告下川を訪れ、年末で金銭の入用なことや保険金五〇〇、〇〇〇円が給付されることもあつて両者の間で本件事故について同被告が同原告に金三五、〇〇〇円を支払い、同原告はその他に自動車損害賠償責任保険金を受領する以外同被告に対して一切請求しない旨の示談契約が成立した事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

しかしながら、<証拠>を総合すれば、右示談当時の原告政一郎の症状は比較的軽く、頭重、頭痛、不眠等を幾分訴える程度であつて、後遺障害は昭和四二年四月ころに至つて漸く後遺障害等級一二級一三号該当という状態であつたが、その後段々悪化して遂には全く廃人同様の状態に至つたことを認めることができる。右事実に前示の示談内容とを併せ考えると、右示談における放棄条項がその余の一切の請求権を放棄するものであつたとはいえ、その後の原告政一郎の後遺障害の程度内容が右示談当時に双方が大体予想した範囲を遙かに超える重大なものであつて、それによる損害は当初の示談金に比して甚だしく均衡を失するものといわなければならない。このように、全損害を正確に把握し難い状況のもとにおいて小額の賠償金をもつて満足する旨の示談がされた場合においては、示談において放棄した損害賠償請求権は、示談当時予想していた損害についてのみと解すべきであつて、その当時予想できなかつた後遺障害が発現した場合その損害についてまで賠償請求権を放棄した趣旨と解するのは、当事者の合理的意思に合致したものとはいえない。(木本楢雄)

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